ここ数年で突然、アフタヌーンティーについての情報がSNSなどで頻繁に流れてくるようになり、意外と身近にあるものだということを認識した。調べてみると、アフタヌーンティーは有名なホテルやパティスリー、レストランなどで提供されていて、私が調べた限りだと一回あたりの価格は大体4000円以上する。情報自体は見かける機会が多いとはいえ、何かきっかけがないとなかなか手が出せるものではないということが分かった。そんな中で、近々東京を離れる友達の誕生日が近づいてきていたので、ここぞとばかりに友達を誘い、誕生日祝いと送別会を兼ねてアフタヌーンティーを予約することにした。
様々なアフタヌーンティーを比較検討し悩みあぐねた結果、その中でも比較的安価なプランがあった「bills」に決定した。リコッタチーズのパンケーキで人気を博し、「世界一の朝食」という売り文句で有名なオーストラリア発のレストランだ。日本に上陸した際に、何かのメディアで紹介されていたことをきっかけに存在は認知していたが、実際に店舗の中に入るのは初めてだった。ずっと気になっていたレストランを楽しめるということで、当日は楽しみと緊張が入り混じり落ち着かなかった。
店内に案内されると、丸い机の半円を囲うようにカーブしたソファに案内された。普段カーブしたソファに座る機会なんてないから、それだけで嬉しくなってしまった。座ってみると、自分たちを囲う様に背もたれのおかげで守られているような安心感がある。既にテーブルに置いてあったメニューの紙を眺めながら想像を膨らませ、店内を眺めながら待つ時間も楽しかった。
暫くすると、ウェイターさんがショッピングバッグを手に持って歩くような感じで、颯爽と三段重ねのティースタンドを運んできてくれた。ティースタンドには一口で食べられるサイズの色とりどりの軽食やお菓子が並んでいる。マカロンやパブロバ、フィナンシェ、カナッペを死ぬほどおしゃれにしたようなもの…どれも凝っていて一口で食べるのが勿体無い。それとは別にクロテッドクリームとジャムで楽しむスコーンと、名物のリコッタチーズのパンケーキも用意された。紅茶やハープティーなどの茶葉は数種類ある中から好きなものを都度注文する。ティーカップのデザインが好みで、後から調べたら1616/arita japanという有田焼のブランドのものだった。
一品一品、味と食感のレイヤーが豊かに感じられ贅沢な食体験だった。その中でもやはりリコッタチーズのパンケーキは分かりやすく官能的な美味しさで、例えるならパン屋さんのお店の前の空気を形にしたようだった。これでもかというほどのバターの香り、普段の食事では出会うことがない口当たりの軽さ。リコッタチーズのおかげかどこか爽やかな風味もあり、味の奥行きを広げていた。パンケーキに添えられたバナナもとろりと柔らかく溶けて庶民のフルーツの姿からは遠く思えた。ペロリと平らげた後、メープルシロップが別添えで存在していたことに気づく。メープルシロップをかける前に味見したその時の美味しさの勢いで最後まで食べてしまっていたのだった。友達の方のパンケーキにはバースデイのデコレーションをしてもらえた。誕生日祝いということを事前にお店に伝えていたのだ。喜んでもらえていたら嬉しい。
初めてのアフタヌーンティーだったが、満腹にはならないだろうという予想は遥かに超え大満足だった。1840年頃にアンナ・マリア・ラッセル公爵夫人によって始められたとされるアフタヌーンティー。ランプの発明などにより、それまでよりも開始の時間が遅くなった夕食と昼食の間の空腹を満たすために始まったそうだが、現代人の私は夕食なんていらないくらい満腹になって店を出たのだった。
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