パンデミックが始まって以降、初めて北海道に行く機会に恵まれた。
というのも、パートナーの父が数年ぶりに来日するということで、彼の未踏の地である北海道の函館へ旅行しようという計画が持ち上がったためだ。函館を選んだのには理由があった。パートナーもその父も、移動には極力飛行機を使いたがらない。2人とも飛行機自体が苦手ということもあるが、環境保護の観点から二酸化炭素を大量に排出する飛行機の利用を極力避けているからだ。そのため、新幹線での移動で、料金的にも時間的にも現実的な範囲から目的地を探した結果、北海道の最南部である函館に自動的に決まった。東京駅から新幹線で約4時間。飛行機よりも時間がかかるように感じるが、空港までの移動や搭乗手続きなどを考えると、移動自体にかかる時間も費用もそう大きく変わらなさそうだった。私自身、北海道は札幌と小樽周辺に行ったことがあったが、函館は初めてだったので、当日までSNSで下調べをしながら行きたい場所の目星をつけていた。
東京駅を朝に出て、新函館北斗駅に着いたのは丁度お昼時だった。当日は最高気温が10℃に届かず、雨が降ったり止んだりするどんよりとした天気だった。冷たい風が強く吹き、初めて踏み入れた函館の街は人気も疎らで、どこかシベリアのような雰囲気だった。スウェーデン在住であるパートナーの父は終始「スウェーデンに戻ったみたい」と笑っていた。そんなわけで、最初の印象は良いとは言い難かったが、函館港と函館山が隣接する景色や、明治時代を思わせる建造物が複数残る街並み、トラムが走る道路の様子は違う土地に来たという感慨を与えてくれた。函館駅周辺を散歩し、昼食をとった後は観光名所である五稜郭に向かった。五稜郭公園は桜の名所として有名だが、訪ねたその日は桜はまだ3分咲き程度。東京では桜が散った直後だったので、1ヶ月ほど季節を遡ったような感覚になった。
五稜郭タワーに登り、これから滞在する函館の街を一望し、五稜郭の歴史について知見を深め、五稜郭公園内を散歩してその日はホテルに戻った。夜は函館港沿いの観光エリアにある煉瓦造りの商業施設内で夕食をとった。
2日目はレンタカーを借り、函館から車で40分ほどの場所にある大沼国定公園へドライブがてら向かった。自然が保護されている道立公園で、全国で最も古い自然公園の1つだそうだ。実際、景色は絵画のように美しかった。大沼には小さな島が幾つもあり、中には橋が設置してあって渡り歩けるようになっている島々もあった。落ち着いて景色を眺められる場所に着くと、私たちはそれぞれ黙って眺望を楽しんだ。昼食をとった後は大沼国定公園から車で20分ほどの場所にあるしかべ間歇泉へ。函館とは真反対側の海沿いにある間歇泉で、10分置きくらいの間隔で天然温泉の飛沫が噴き上がる。建物の三階分はあろうかという高さまで約1分間噴出が続くのだが、その噴き上がった温泉が、その間歇泉の目の前に設けられている足湯コーナーへ地下を通って流れ込むような仕組みになっていた。間歇泉を眺めながら足湯もできるということで是非とも体験したかったのだが、私は当日寒さ対策でタイツを履いていて、1人だけ足湯に入れなかったのを今でも悔やんでいる。足湯をしたパートナーはその日の夜まで足がぽかぽかしていたらしい。間歇泉には小一時間ほど滞在し、その後、私たちは山道をドライブしながら函館へと戻った。その日の夜は間歇泉の施設のスタッフさんにお勧めされた海鮮居酒屋に行ったり、気になっていたビアバーに行ったりとひとしきり函館の寒い春の夜を楽しんだ。