母は昔からずっとバレーボールをやっていて、子供の私はママさんバレーの練習時間には母の実家へ預けられることが多かった。そんな時は、近所にあるTSUTAYA(最近つぶれた)に寄って、レンタルビデオコーナーで見たいアニメを選んだ。
幼少の頃は派手な演出のある映画が怖くて苦手だったので、安心して見られる映像としてディズニーのアニメ映画にはとてもお世話になった。大人になった今でも主要なディズニー・ピクサー作品は欠かさずチェックしている。過去作から最新作まで見ていると、毎作新しいことに挑戦していると気づくし、ストーリーに込められたメッセージも時代の潮流をしっかり掴んでいることが伝わって来る。世界で最も有名なアニメーションスタジオとして滞留せず常にアップデートを重ねている様には、純粋に感動を覚える。映画製作や観客への誠実な姿勢を感じられるから、視聴する前から一定の安心感がある。
ディズニー映画では、主人公が自身の親や強い立場にある登場人物に反発するという設定が多い(ストーリーが展開しやすいという都合もあるだろうけど)。この文章を書いている時点でのディズニー最新作『ミラベルと魔法だらけの家(原題:Encant)』では、主人公の祖母の「自分の町のために家族で貢献したい」という献身さや責任感から生まれる言動が、いつしか主人公やその姉妹たちにプレッシャーとして伸し掛るようになってしまう。地域社会を支えるための伝統が、全く悪気がないにも関わらず、結果として周囲の期待に応えるために本心を抑えたり、応えられないことから自信を喪失したり、いない者として扱われるようになってしまうという描写が現実そのものだった。私が実家で抱いていた心境、「条件付きの愛情」によって身動きが取れなくなる気持ちを代弁してくれた映画だった。
私の実家は昔も今も、家父長制を絵に描いたような家だ。親戚の家庭も似たようなものだけど、実家は親子三世代で暮らしていたこともあって、より家父長制の空気が濃厚だったと思う。
何不自由なく、大切にされて育った。ただ、自分の育った環境を客観的に捉えられるようになった今振り返ると、私には合わない環境だった。両親や地元の社会が望むような人間にはなれなかったし、なる気もなかった。だから、そこから飛び出して自分の行きたかった大学へ入学すると同時に上京してからは、随分と心が軽くなったのだった。世の中の広さを知り、居心地の良い場所を心ゆくまで探すことができる。地元の大学に行くよう勧められた時もあったけど、心の声に従って正解だった。自分はとてもラッキーだったと思う。
実家や地元のことを悪く言いたくはない。誰にだって自分の守りたい領域や、心地良いと感じられる環境がある。その人が置かれている立場やそれまでの経験の差によって、一番大切にしたいことが違うのは自然なことだ。でも、頭ではそう思っていても、たまに実家に帰ったり両親に会って話したりすると、決定的に受け入れられないと感じることにぶち当たる場面がよくある。そういう場面ではどうしても「頭で思っていること」は吹き飛んでしまうので、何年か前まではそんな時は激しく反論していた。しかし、そうやって反論しても私の思いが伝わることはあまりなく、そもそも他人の考え方に無闇に干渉すること自体が間違っているかもしれないという思いから、最近は意見したい気持ちを最小限に抑えるようになった。抑えた気持ちは身近な人に話したりして吐き出しているけど、解決しようもなく代り映えもしない話を毎度聞いてもらうのは正直心苦しい。でも、明確な解決方法なんてないし、これからもしばらくこの悩みと共に生きていくことになると思う。
それでも、自分の居場所を心地良いと思える環境に少しずつ作りあげていくことはできるし、それが大きな救いになっている。
“理想の子供”になれなくても良い、両親や社会の期待に応えなくても良いと気づけたのは私も最近のことだけど、その人が心地良いと思えることに正直でいて、探求できて、元気でいられることが一番に決まってる。
運良く、社会も少しずつ多様な生き方を受け入れるような流れに変わってきている。もう少し時間がかかりそうではあるけど、幸先は良い。
大切な人と、もし考え方が共有できなくても、せめて私が元気そうだとそれとなく伝わることが、どんな言葉を並べるよりも直接的に響いてくれるような気がしている。
このテキストも、私と似たような気持ちを抱いている誰かの声を代弁することができるだろうか。代弁とまでいかなくても、ただ黙って隣に座るくらいはできてたらいいなあと思う。
今回の一曲
ミラベルと魔法だらけの家 -We Don’t Talk about Bruno
映画内の字幕だと台詞や歌詞の内容がコンパクトになっていることがある。この曲ではそれが顕著で、出てくるキャラクターが同時に違う歌詞を歌っている箇所では和訳がかなり省略されていた。しかし、こちらの和訳動画のおかげで個々のキャラクターがどんなことを歌っていたか分かったし、映画の輪郭がよりはっきりした。ありがたい…。
ファミリーツリーの一番若い世代にあたるキャラクターが家族のために無理をしていることが歌詞にも現れている。この映画の楽曲を担当しているLin-manuel Mirandaの偉大さを改めて感じた。