函館旅行の最終日は函館山の中腹にある街をゆっくりと散策した。教会が複数集まっている地区があり、その中の教会の一つである函館ハリストス正教会を覗いた。中に入ると入口で靴を脱いで上がるよう案内があるのだが、北欧出身のパートナーは欧米にはない日本らしいルールだと面白がっていた。私自身は日本国内で教会に足を踏み入れる機会はこれまでほとんどなかった。聖書の象徴的なシーンが描かれた絵画には、日本語で状況説明が直接絵の上に書かれていて、聖書に馴染みのない日本人向けの色んな工夫が垣間見えたのが興味深かった。教会の周辺からは函館の街が見下ろせてとても見晴らしが良く、しかし私たちはそこからさらに高い場所を目指し歩いて行った。公園や整えられた林の中を歩き、丁度腰を下ろせる場所を見つけると、そこは函館山の山頂まで繋がるロープウェイの真下だった。時折頭上をゴンドラが通っていくのを眺めながら休憩し、その後は新幹線の時間が迫っていたので下山して金森赤レンガ倉庫を余った時間で物色した後、慌ただしく函館の地を離れた。
東京に戻ってから、函館で特に印象に残ったことは何だったのかを考えていた。そんな中で自然と、初日に訪れたイタリアンレストラン「Grano E Acqua」での出来事が浮かんできた。
北海道といえば海鮮やラーメンなどが有名だが、同行していたパートナーの父がベジタリアン(彼の場合はシーフードと肉を避け、乳製品や卵はOK)ということで、食事の際はある程度選択肢の多そうなレストランや居酒屋を探すようにしていた。そうして見つけたお店が「Grano E Acqua」だったのだが、こぢんまりとしていて雰囲気も味も良く、何よりも店長さんの対応が素敵だった。お通しで出てきたメニューに鶏肉とエビが使われていたので(これがとても美味しかったのだが)、伝え遅れたことを謝りながらパートナーの父がベジタリアンであることを伝えると、しばらくして代わりにとカプレーゼが運ばれてきて、私たちは小さく驚いた。
日本では欧米に比べるとベジタリアンやヴィーガン向けのメニューがあるお店は限られている。もちろんお店の方に相談すると快く対応してもらえることがほとんどだが、お通しが改めて提供されたのはここが初めてだった。帰り際には店長さんが直々にパートナー達の母国語で「Tack så mycket (スウェーデン語で"ありがとうございます")」と言いながら見送りをしてくれ、またもや驚かされた。会話の中でどこの国から来たのかという話題になっていたので、私たちが帰るまでにスウェーデン語での挨拶を調べてくれていたのだろう。他にも函館での熊の出没状況や周辺の観光地なども快く教えてくれ、次の日のドライブではおすすめしてくれた観光地であるしかべ間歇泉に行くことができた。飲食店の善し悪しを接客というカテゴリーだけで判断するのは何となく居心地の悪い気分になる性分だけど、なんだかんだ素敵な対応をされるとまんまと懐いてしまう。今後、函館についての話題を人と話すときには必ず挙げたい場所が出来たことが嬉しい。